
RYO ITO
Travel Diary
Portraits
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September 2018
Ljubljana ~ Piran
01
スロヴェニアと聞いて正直ピンとこないだろう。僕も実際に名前は聞いたことはあってもどんな国かともし聞かれたら”イタリアの横にある小ちゃい国”と答えるほかなかったと思う。だからこそこの国に興味を持ちチケットを買った。
イタリアはヴェネツィアを経由して首都リュブリャナに降りたったのは9月初旬。まだ夏の暑さが心地よく残る街には多くの地元民がまだ沈まぬ太陽の光を気持ちよさそうに浴びながらビールやワインを片手に仲間達と楽しそうに話をしていた。
数多くの内戦を繰り返してきた旧ユーゴスラビアから独立した国の一つ、スロヴェニア共和国。
生涯かけても98%行かないであろう国とも呼ばれているここスロヴェニアを約1ヶ月間、残り少ない貴重な夏の太陽を浴びつつ変わりゆく木の葉の色を追った。

首都リュブリャナからバスで約2時間、夏のリゾート地として多くのスロヴェニア人が別荘を持つここPiranは隣国イタリアとクロアチアとの国境の間に位置する。街全体がまるで小さな歴史博物館の様なこの港町には午後8時を回ってようやく傾きはじめた真っ赤な太陽が蒼いアドリア海とオレンジ屋根の建物で形成される街の美しいコントラストを優しく包み込んでいた。
92年に旧ユーゴスラビアから独立して以来、ヨーロッパ思考を積極的に取り入れてきたスロベニア。街では多くの若者が自分のやりたいことを淡々とやっている。その背景には政府を主導とした国全体からの手厚いサポートが充実していて29歳までの企業理念を持つ若者に対して最大300万円までの資本金支援制度がある。だからこそこの国で出会った人々はしっかりした考えを持ちつつ出会った仲間との繋がりを大切にしているように思えた。2週間に一度は親の持つ別荘がある、ここPiranに来ては大切な仲間とワインを飲みながらマインドをリセットする。この日彼女らと日没後にビーチに向かい夜な夜な飲み明かした際も話題はそれぞれが考えている将来のビジネス展開だった。ほろ酔いの彼女らのその表情は不安よりも希望に満ち溢れていた。
スロベニアでの時間のほとんどをここリビュリャナで過ごした。ちょうど国のど真ん中に位置しているため北のLake Bladや南のPiran、西に行けばイタリアのTrieste、東に進めばクロアチアのZagrebと素晴らしい立地。そして何より中心地に流れる河を基準に、コンパクトに建ち並ぶ中世ヨーロッパからの建造物はここに住む人にとっては誇るべき街並みであり我々ビジターをも魅了する。
夏の日差しも少しづつ落ち着いてきた頃、街には老若男女問わず多くの人々が長くないこの国の夏を少しでも楽しむかの様に公園のベンチやカフェのテラスで思い思いの時間を過ごしていた。何を話すわけでもなくただただ寄り添って座る老夫婦もいれば、何かについて熱く語り合う若者たち、久しぶりの再会なのかそれともただの習慣なのか笑顔でハグをするもの。。この街にながれる雰囲気は穏やかで優しく明るかった。
案内をしてくれていた友人は言う。”ここでは特にやることも少ないし冬は長いからこの時期を皆、毎年毎年楽しみにしているし悔いのない様全力で遊ぶんだ。”
そんな彼の言葉を聞いて僕は一層冬のスロベニアもいつか見てみたいと思った。
ここで暮らす人々にとって母国とは物凄く大切で誇るべきものなんだと感じた。それはきっと数多くの内戦を繰り返し必死に自分の力で生きようともがいてきた過去と、隣の国から少ないチャンスを移り住んできた人たち、”元々はスロベニアで生まれてないのよ”そんな人たちとたくさん出会い話を聞いていると自らの母国愛は捨てず忘れていない。その中でここスロベニアを第二の故郷として愛し生きている。
隣の国々と隣接しているヨーロッパではごくごく当たり前のことなのだが、島国で育った僕には常に彼らの経験や言葉は刺激的で、いつもいつも自分をいい意味でまだまだ知らないといけないものがあると気づかせてくれる。
街を歩いていても新しい仲間を紹介されても面白いほど同性愛者と出会う。それでもって小さな街なのだから街ですれ違う人の半数は顔見知りや元カノ元カレ。それもオープンなこの国を象徴しているしそこには相手を性別ではなく人間性や人としての本質をよくみているこの国の人の良さがあるのだろう。君は何をみてどう感じる?好きな物事をどこまで追求しそこから何を得ている?自分で選択し決断できるこの世の中でなぜそこに喜びを感じず不安に煽られる?周りは関係ない、自分の人生は自分で好きに生きるんだ、周りの人の力を借りて、人が困っていたら助ける。その人がどこの国の人だろうと女でも男でも同じ人間として支え合いながら自分の好きなことについてとことん話そう。そこにワインやビールがあればもう最高の人生じゃないか。そう話す友人と帰国前夜、夜が明けるまで飲み明かしたあの夏は僕の人生のハイライトの1ページになった。
夏の日差しが強さを弱め木々の葉が色を着飾りはじめた頃、僕はもう一度、この国に来ようと決めた。
いつの日か自分の子供を連れて。。。